図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの

ミュージカルばかりが続いていたのでここで劇団作品を。

2018年6月に観た劇団イキウメの舞台です。
イキウメに埋まってる友人から
散歩する侵略者」と「図書館的人生Vol.2」のDVDを借り、その未知なる世界観に圧倒されこれは生で観なくては!と思い初参戦。


映像の中の存在だったイキウメが実際に目の前で繰り広げる独特な世界に飲み込まれるのに時間はかかりませんでした。
いや、ほんとにお見事。
役者さんも脚本も演出も照明も音楽も美術も、その全てが完璧なイキウメワールドを作り上げ、その世界観へ開いた入り口から一気に迷い込んだ感覚になりました。



作品は
①「箱詰め男」(2036年)
②「ミッション」(2006年)
③「あやつり人間」(2001年)
の三部構成でオムニバス。
様々な役柄を9人の役者さんがこなしていきます。

①は、一見すると監禁事件の臭いすら感じさせるサスペンスストーリーの様ですが違うんですよね(笑)
脳に進行性の病を発病した脳科学者の山田不二夫が、自分の意識ををコンピューターへ移し機能させ生命活動を続ける、それを取り巻く家族の話なんです。
肉体は滅びてるが意識は(寄木細工の)PCの中で生き続けてる。
ちゃんと会話も出来るしちゃんと「お父さん」。
アメリカから久しぶりに帰国した息子はその現実に戸惑いながらも会話してる姿がなんともシュールで、笑いも起こってました。
ある時、匂いを感じるセンサーを取り付けた事から人としての感覚を取り戻す反面、単なる記録でしかなかった様々な過去が記憶として呼び起こされ、嫌な記憶にうなされるようになるんですが。。。

人が人である事の定義や、感覚が人に与える影響、匂いと記憶の結び付き、普段特に意識しない事柄を確実に台詞にして切り込む上手さ。
最後の会話は意外な言葉でギョッとしてゾッとしました。


②は死亡交通事故を起こし、実刑判決を受けた山田輝夫は、「信号は赤だったけど進んだらどうなるのか?」と突然沸き上がった衝動に従って事故を起こしてたと証言…。

この"衝動"に関する台詞で
「全校集会でシンとしてる時、突然大声で叫んだらどうなるかなって思った事ない?」
というのが出てくるのですが、これを聞いた時に思い当たる事が結構あってハッ!とし、その瞬間、ステージと自分が繋がったような不思議な感覚に襲われました。
きっと、その衝動は誰しもが一度は経験するのではないかなと。

山田輝夫はその自分の意志とは無関係に襲ってくる衝動を指令、つまり「ミッション」として自分に課して実際に行動し、その衝動は天からのお告げで人を救っている…という理屈へ到達するんですけど、それを真面目に語る姿の怖さと不気味さ。
目に見えない、意志とは関係ない衝動を「ミッション」として定義し、想像を広げ描き切ってしまう脚本にしばし言葉を失いました。


③は母親のガンの再発をきっかけに学業、就活、恋人の全てをリセットしたいと考える大学生の由香里の話。
ガンの母へ「病気と闘って欲しい」と言うのは母の為でなく、自分が不安だからじゃないか?と感じる事で、周りの人間の「あなたの為だから」は本当に自分の為なのか?と違和感を感じるようになる。
この感覚はきっと日常に転がってるもの。
優しさの裏側にあり、気持ちの押し付けに他ならないと思う事はしばしばある。
本当の相手の為とはどういう事なのか。。。

違和感を可視化したような、真っ黒いゴツゴツした岩のようなものがステージ上から現れるのがSFチックでした。


そして単なるオムニバスで終わらないのがイキウメ。
③で登場した人物が①と繋がってたり、まるでからくり細工みたいに構成されています。
観劇後、頭の中でぐるぐる思い返すと様々な繋がりに気付き、えー!と仰天するなどして二度楽しめるのもこの舞台のポイントかもしれません。
全て分かった上でもう一度観ると、違った角度からも楽しめそうです。



イキウメ作品に触れた事のない方はこの表現力の乏しい書き方だけでは半分も面白さが伝わらないと思います(笑)

そこで…
突如襲ってくる無意識の感情、衝動、思い出を具現化したこの作品はDVDになってるので是非見てくださいw(もっと詳細に書くとこの5倍ぐらいに膨らみそうなので)
私自身、友人に上記のDVDを借りた時からイキウメの魅力にヤられてしまい、会場の物販で
散歩する侵略者「太陽」「天の敵」
の三本をまとめ買いしました(笑)
一本の値段は4500円前後なので13000円のチケットを思えばタダみたいなものです。
(イキウメのチケットは5000円)


日常で意識しない脳内や心の動きを「もしかしたらあるかも…」と思わせてくれる隣り合わせのSFワールドで、人間とは…という問いをベースに見事に作り上げる骨太な脚本と緻密な台詞たち。
その独特なイキウメ世界を是非劇場で!!


※ちなみに5月から6月にかけて東京、大阪で公演あります。
タイトルは「獣の柱」



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